イベントチェーンを応用した車載ECUのタイミング検証
タイミング検証とは、例えば自動ブレーキシステムの場合、安全性確保のために「センサーが障害物を検出してから、必ず300ms以内にブレーキを作動させなければいけない」といったタイミングの要求に対し、そのタイミング要求を満たしているかどうかを検証することをいいます。しかし、複数のECUにまたがった通信の遅延、ECU内のタスク、マルチコア、その他要素の遅延などから生じるバラツキなどの影響があるため、従来の手法ではその要求が確実に満たされ、安全が確保されているかを検証するのは非常に困難です。
1. イベントチェーン解析
タイミング検証では、イベントチェーン解析という手法が使われます。
例えば、ECUソフトウェア設計時の緊急ブレーキの場合を例に取ると、各機能の内容設計とそれらの相関関係に関して、以下のような設計が行われます。
しかし、これだけでは、タイミングに関して以下のような検討ができません。
- クリティカルなパスはどこか
- 各機能のタイミングバジェットはどれぐらい
- エンドツーエンドの反応時間はどれぐらいか
- 機能間で上手く同期ができているか
これらを検討するには、次のようなイベントチェーン解析を行う必要があります。
ところが、さらに機能が加わり、システムが複雑になってくると、人手でイベントチェーン解析を行うことは非常に困難になります。
2. ツールを使用したイベントチェーン解析
そこで、ユビキタスAIで販売しているマルチECU対応タイミング検証ツール「chronSUITE」を使用します。タイミング検証にツールを使用することで、イベントチェーン解析を容易に行うことが可能になります。
chronSUITEによりイベントチェーン解析が可能に
ツール上で機能を設定し、それらの機能をRTOSの各タスクに割り当て、タスクの並列実行をシミュレーションしてエンドツーエンドのタイミング検証を可能にします。これにより、各機能のタイミングバジェット設定、上手く機能同士の同期ができているかなどが確認できるようになります。
3. マン・トラック&バス社での使用例
これは、ドイツ、マン・トラック&バス社での緊急ブレーキシステム、渋滞アシスト機能の開発で実際に行われた時のイベントチェーン解析、エンドツーエンドタイミングの検証例です。
実際の緊急ブレーキのイベントチェーン
タイミングシミュレーションの結果
また、イベントチェーン解析によりタスク内の各処理の順序を入れ替えることで、システムの実行時間を短縮することが可能になります。
最適化の可能性:イベントチェーンによるタスク内の実行順序の最適化により、サイクル時間の短縮
以下は、マン・トラック&バス社における緊急ブレーキシステム、渋滞アシスト機能開発で実際に行われた、イベントチェーン解析による実行時間の改善率となります。
最大で約20%の実行時間短縮ができました。
4. まとめ
このように、chronSUITEを使用したイベントチェーン解析では、ツール無しでは大変なタイミング検証も行うことができ、まれにしか起きない問題の発見、シミュレーションによるタイミング問題の早期発見、修正の手戻り工数削減、タスク設計の改善による実行速度の最適化が可能になります。
さらに、ユビキタスAIで販売している GSIL とchronSUITEを組み合わせることで、実機無しでの、早期のタイミング検証が可能となります。
このコラムの著者
株式会社ユビキタスAI
エンベデッド第3事業部 担当部長
植田 宏​(うえだ ひろし)
大学卒業後Tire1メーカーへ入社、ECUソフトウェア開発を行う。その後海外で組込みソフトウェア開発エンジニアの経験を経て、帰国。1998年より車載系ソフトウェアの技術営業に従事。自身の経験を活かし、課題解決に役立つ海外のソフトウェア商材を取扱い、国内のエンジニアへ届けている。
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